上田学園ホーム   

2000年に行われ大反響を生んだ対談

上田学園長×村上龍(作家) 
JMM 対談 

 

1.日本語教師の経験から

 

村上 僕はフリースクールについてほとんど予備知識がないので、まず最初はその現場がどういうものなのかということから、お話をお聞かせいただければと思います。

上田 私は基本的に、子供たちに対して「不登校?だからどうしたの?」という態度で接していますし、実際にそのように言っています。あることをするのに、他人より時間がかかってしまったら、残りの時間で帳尻を合わせればいいんだと思います。例えば大学に行くのが他の人より3年遅れたら「3年長く生きればいいんじゃない」という話をします。
不登校というのは、彼らを総称するための名前がないので、とりあえず便利がいいのでまとめて不登校と世間が言っているだけなんですね。
逆に不登校という分類をされることで、彼らが安心して、何も努力しなくなることもあって、それがすごく嫌なんです。

村上 子供のほうにもそういう傾向はありますか。

上田 あります。親にとっても、そのカテゴリーに子供を入れてしまえば、責任を放棄できるんですね。言葉だけが先行して、子供も「キレる」という言葉の意味を理解せずに、その言葉を使うと便利だから、という理由で自分の行動を説明しようとするんですね。都合のいいように利用しているように思います。

村上 それは不登校だけの問題ではないかもしれません。フリーターという言葉でも、その言葉があることでカテゴライズされて、ほかにも同じ仲間がいるんだということで安心しているという面もあると思います。

上田 まったくその通りだと思います。私はこの学校を始める前に、日本語教育でスイスに7年間、現地の学校設立のためにアメリカに2年半、それからタイにもいました。その経験のなかで、混血児の日本語教育をやりたいとずっと思っていました。
イギリスへ教師の養成に行くこともあるのですが、小さな留学生がたくさんいるんです。小学校の6年とか、中学1年とか、そういう小さな子供がたくさんいるんです。

村上 それは日本からの留学生ですか。

上田 そうです。私は親がまったく何を考えているのかわからなくて不思議でした。国際人になるということの意味を勘違いしているとしか思えないんですね。
日本の学校でうまくいかないから、イギリスの学校へ留学させる。日本の私立学校が海外に学校をつくって、日本人を入学させているんです。でも日本から行っている先生のほとんどが英語ができないので、イギリスに留学していても、日本の学校と同じ勉強をしている。イギリス人の先生も少ない。
夏休みになると、寄宿舎もお休みになるので、子供たちを英語教育も兼ねて、ということでホームステイさせるんです。私が夜11時ごろバスで帰宅していると、ものすごく騒がしい集団がいるんです。そのときに聞こえてくるのが日本語なんですね。
それで、あまりにも周りに迷惑をかけているので、注意というわけでもないんですが、話しかけてみたんです。日本から留学してきて、ふだんは何をしているのかと聞いたら、毎日ゲームセンターに行っていると言うんです。そんなところに毎日通っていたらお金がかかるでしょう、と聞いたら、1週間に6万円も使っているという子もいました。
私が日本語教師ということもあって、現地の語学学校の先生から、どうして日本人の子供は語学の習得が不得意なのか、と相談されることがあります。私は知っている限りで、日本の文化や日本人の性格を説明するのですが、そのときに感じたのは「日本人だから」ということは関係ないということでした。
小学生や中学生で、本来ならばさまざまな知識を吸収する時期なのに、英語を勉強するという理由でイギリスに留学させてしまうのは問題があるのではないかと思います。日本語での知識の吸収がなければ、英語への置き換えができないんです。英語力の問題ではなくて、日本語が、まだ完全ではないんだと思いました。そこに親は気がつかない。
現地の大学教授に、日本人留学生がイギリスに来て、卒業できないのはなぜなのか、とも聞かれました。私も不思議に思って、日本人の学生に聞いてみたんですけど、留学した理由の大半が「英語を勉強するため」だと答えるんです。
イギリスの大学は自分の好きなことがはっきりしていれば、それで学位がとれるのですが、日本人学生は単に数学の勉強が嫌いだから、絵を描いて卒業できればいいいかなと思っています。でも、実はそれほど絵が好きじゃなかったりする。
大学は学生に手取り足取り指導してくれるわけではないですから、自分が好きなことを見極めて勉強しなければ、卒業できないんです。日本にいる親にしてみれば、5年も行ってるんだからそろそろ卒業かな、と思っているんですが、日本の大学と違って、通えば卒業できるというものではない。それでそのまま卒業できずに帰ってきてしまう。
子供たちもそうですが、大人も自分の考えをはっきりと表現することができない。現地では、日本人は子供も大人の留学生も鼻つまみ状態なんです。お金を落としてくれるから、それほど強く排除されるようなことはありませんが。
そういう問題を見てきて、日本に帰ってきてみると、不登校の問題が騒がれている。私たちが子供のころは、ずる休みはしても、不登校という感覚はなかったですよね。
それでとても不思議に思って、いろいろな人に話を聞いたり、調べてみたりしたら、学校は、生徒という生ものを扱うところなのに、先生が腐っている、古くなってカビが生えてしまっている。そうなると、生ものの生徒は学校に行かないよ、と思いました。

村上 それはいつごろですか。

上田 96年くらいです。自分の好きな形の学校をつくって、何とか問題を解決できないかと思いました。まずは資金を集めて、きちんとした学校法人にしたほうが補助金も出るし、いいのかと思って調べてみたら、学校法人は自由がきかないということがわかったので、やめました。
自分も教師だったからわかるのですが、教師は教室に入ると、天下をとった気がするんです。実社会では、知識人として、あるいは人間として、決して上からものを言える立場ではないと思うのですが、教室という密室に入ってしまうと、先生は自分を誤解してしまうんですね。親も自分が何かをするときに、子供に対して汚い面や一生懸命なところを見せない。
それで子供たちは、世の中は自分の思い通りになると思っている。私は、汚い面も一生懸命なところも生徒に見せることができる人に先生になってもらったほうがいいんじゃないかと思って、学校の先生にはここで働いてもらうのはやめました。

 

 

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